糖尿病
糖尿病とは
現在、日本人の成人の 5~6人に1人が糖尿病(糖尿病予備軍)ともいわれている背景には、社会環境、生活習慣の変化があります。
糖尿病とは、インスリンというホルモンの作用不足により、血糖値が高い状態の病気です。食事をすると、腸から糖が吸収され血糖値が上がりますが、インスリンが正常に働くと、血中のブドウ糖は速やかに細胞に取り込まれ、エネルギー源として使うことができる状態になります。インスリンの出方が悪くなり効きが悪くなると、血液中の糖が細胞の中に入ることができなくなり、血糖値がいつも高い状態になります。このような状態が糖尿病です。血糖値が高い状態が続くと、血管を傷つけたり詰まらせたり、様々な病気を引き起こす原因となります。
糖尿病は放置すると末梢神経障害、網膜症、腎症という合併症を引き起こし、脳卒中等のリスクが高いことも知られています。
糖尿病には1型と2型があり、1型は主に自己免疫反応により膵臓のβ細胞が破壊されることが原因です。小児期に発症する糖尿病は1型が多く、風邪や風疹、おたふく風などのありふれたウイルスの感染をきっかけにして発症することが見られます。日本では2型糖尿病が大多数を占めます。2型糖尿病は、生活習慣の乱れや遺伝、ストレスや肥満をきっかけに発症します。
糖尿病の合併症
糖尿病性末梢神経障害
糖尿病の合併症の一つである糖尿病性末梢神経障害とは、末梢神経(手足の先)にピリピリとした痺れや針を刺すような痛みが生じます。これは比較的早期に症状が現れ、悪化すると次第に胃腸の具合が悪くなったり、立ちくらみ、立ち上がることが困難になったりするなど身体に様々な症状が現れます。
糖尿病性神経障害には、自律神経障害と感覚・運動障害の主に2種類の障害があります。
自律神経障害には、胃腸や心臓などの内臓の働きを調節している神経に起こります。症状は、立ちくらみ、排尿障害、下痢、便秘、勃起障害などが現れます。
感覚・運動障害では、手足の感覚や運動をつかさどる神経に起こります。症状は、足の痺れ、冷え、こむらがえりなどが現れます。全身の神経の中でも足、特に足先・足裏から起こりやすくなります。
糖尿病性網膜症
日本の糖尿病患者のうち糖尿病網膜症にかかっている割合は、約15%とされ、約140万人と推定されています。年間約3,000人の失明を引き起こし、50〜60歳代の失明理由では第1位となっています。
糖尿病になると、細い血管が詰まり血流が妨げられます。網膜にも無数の細い血管があるため、血管が詰まり血流が妨げられます。この糖尿病性網膜症は、光も分からなくなる状態(失明)の危険のある疾患です。血糖コントロールが不良の状態が長期化すると、網膜剥離や眼底出血が起こり、最悪の場合、失明に至ります。
糖尿病網膜症は、糖尿病になってから数年から 10年以上経過して発症するといわれています。自覚症状がない場合が多いため、糖尿病の患者様は症状がなくても定期的に眼科を受診し、眼底検査を受けるようにしましょう。
糖尿病性腎症
糖尿病性腎症とは、糖尿病によって高血糖状態が持続し、腎臓の内部に張り巡らされている細小血管が障害を受けることで発症します。悪化すると腎不全に移行し血液透析などが必要となる場合も多く、透析患者数のうちの約 40%を占めています。
糖尿病性腎症の初期は無症状である場合がほとんどですが、進行すると尿中にたんぱく質が大量に漏出し、下肢の浮腫(むくみ)や全身倦怠感が出現します。また、慢性腎不全の状態になると腎性貧血や尿毒症(神経痛、吐き気、食欲不振)となり、その後、慢性的に浮腫が起こるネフローゼ症候群等の症状が起こります。そのまま、腎臓機能障害が進むと、透析療法を導入することになります。
糖尿病の症状
糖尿病は自覚症状がなく多くの患者様は、「健康診断で血糖値や HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)が高いと指摘された」と言われます。
糖尿病は初期症状もなく、進行しやすい病気です。「なぜか喉が渇く」「尿量と回数が多い」「何もしていないのに、体重が減少する」「やたらとこむら返りが起こる」「疲れやすい」などがあります。血糖値やHbA1cが高いと指摘されたが放置し、数年後に視力障害などを自覚して受
診した時にはかなり進行している場合があります。
健康診断で指摘された、何か気になる症状がある場合は、早めの受診をお勧めします。
糖尿病の治療方法
糖尿病の治療は、食事や運動など生活習慣の改善から始めます。そこでも改善が見られない場合は、必要に応じて薬物治療を開始します。糖尿病の治療薬は豊富にあるため、一人ひとりの糖尿病の病態によって使用する薬剤を判断します。
糖尿病の食事療法は治療の基本です。体内に入ってくるブドウ糖の量を制限する食事療法を行うことで、すい臓の負担を軽くして、すい臓の機能を回復させます。インスリンが分泌できなくなっている人は、体の外からインスリンの補給をしますので、補給の調節をしやすくするために食事療法を行います。正しい食習慣を身につけながら、バランスのよい食事を摂るようにしましょう。詳しくは当院の管理栄養士にお気軽にご相談ください。
運動療法も糖尿病治療の基本であり、高血糖を改善して合併症の予防にも役立ちます。ウォーキングなどの有酸素運動を1日20分から60分、毎日行なうことが理想です。しかし、いきなり運動を行なうと言っても難しいと思います。軽い運動から始めて、徐々に時間を長くしていきます。例えば、「いつも降りる駅の1つ手前の駅で降りてみる」「エレベーター・エスカレーターを使わずに出来るだけ階段を利用する」なども簡単に行える有酸素運動の一つです。食後に運動すると、食後の血糖値の上昇が抑えられます。また、運動を続けることにより、インスリンの働きが改善します。
食事療法と運動療法で血糖コントロールが不良な場合、薬物療法を開始します。薬物療法には、内服薬とインスリン注射があります。どのような薬を用いるかは、糖尿病のタイプや病状、合併症の状態によって決められます。膵臓でインスリンが作れない1型糖尿病では、インスリン注射で外部からインスリンを補う必要があります。一方、2型糖尿病では、主に「血糖降下薬」と呼ばれる飲み薬や注射薬が使われます。これらには、血糖値を下げる効果のあるものや食後血糖値の急上昇を抑えるものなどがあります。薬物療法を始めたとしても、血糖コントロールをするためには、食事療法・運動療法を続けることが大切です。
糖尿病を発症すると治癒することは望めません。また、脳卒中、虚血性心疾患などの心血管疾患の発症のリスクが高いことも知られています。そのため、糖尿病の予防・早期発見・合併症の予防が重要となってきます。気になる症状がある場合は、早めの受診をお勧めします。お気軽にご相談ください。